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東京地方裁判所 昭和54年(ワ)8209号 判決

栃木県宇都宮市〈以下省略〉

原告(反訴被告)

右訴訟代理人弁護士

安彦和子

東京都新宿区〈以下省略〉

(代表者の住所 宮崎県都城市〈以下省略〉)

被告(反訴原告)

富士交易株式会社

右代表者代表取締役

主文

一  被告(反訴原告)は、原告(反訴被告)に対し、金四五〇万円及びこれに対する昭和五四年九月八日から支払い済みまで年五分の割合による金員の支払いをせよ。

二  原告(反訴被告)のその余の請求を棄却する。

三  被告(反訴原告)の反訴請求を棄却する。

四  訴訟費用は、本訴、反訴を通じ被告(反訴原告)の負担とする。

五  この判決は、第一項及び第四項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告(反訴被告)

(本訴請求の趣旨)

1 被告(反訴原告)は、原告(反訴被告)に対し、金四五〇万円及びこれに対する昭和五四年九月八日から支払い済みまで年六分の割合による金員の支払いをせよ。

2 訴訟費用は、被告(反訴原告)の負担とする。

3 仮執行の宣言

(反訴請求の趣旨に対する答弁)

1 被告(反訴原告)の反訴請求を棄却する。

2 訴訟費用は、被告(反訴原告)の負担とする。

二  被告(反訴原告)

(本訴請求の趣旨に対する答弁)

1 原告(反訴被告)の本訴請求を棄却する。

2 訴訟費用は、原告(反訴被告)の負担とする。

(反訴請求の趣旨)

1 原告(反訴被告)は、被告(反訴原告)に対し、金三七四万五〇〇〇円及びこれに対する昭和五五年六月二〇日から支払い済みまで年六分の割合による金員の支払いをせよ。

2 訴訟費用は、原告(反訴被告)の負担とする。

3 仮執行の宣言

第二当事者の主張

一  本訴請求の原因

1  被告(反訴原告、以下単に「被告」という。)は、金地金の販売等を目的とする株式会社で、訴外社団法人日本通商振興協会の運営にかかる金地金等の取引市場である中央貴金属市場の会員として、金地金等の売買取引の委託を受ける業務を営むものである。

2  原告(反訴被告、以下単に「原告」という。)は、被告との間で別表一記載の各金地金売買委託取引を行い、同表(一)ないし(三)記載の各取引の保証金として、昭和五四年四月二六日に金七五万円、同月二七日に金二二五万円、同年五月一六日に金一五〇万円の合計金四五〇万円を被告に預託した。

3  被告は、別表一記載の取引(以下「本件取引)という。)及び原告の関知しないその余の取引の結果、原告に損金が生じたとして、右保証金四五〇万円の全額をこれに充当した旨主張し、そのため、原告は、右保証金全額の返還を受けていない。

4  しかしながら、本件取引は、以下のとおり、被告が保証金及び手数料名下に違法に金員を利得する目的でなされたものであり、被告における本件取引の勧誘及び本件取引自体不法行為を構成する。

(一) 虚偽事実の申告ないし甘言による勧誘

被告は、原告に対し本件取引の勧誘を行った際、被告営業員らを通し、本件取引が投機性を有する危険なものであること、金地金価格の変動により、保証金の追加をし、あるいは清算をして損金の支払いをする等の義務が生じること等取引を行う際に当然了知しておくべき重要事項についての説明を一切行わず、かえって、金価格は上昇を続けるので絶対に損をしない、保証金は必要なとき随時全額返還できる、保証金は必要がない等の虚偽の事実を申告し、あるいは甘言を弄し、その結果原告を本件取引に誘い込んだ。

(二) 違法な清算のための取引

被告は、原告からより多くの金員を手交させる一方、その金員を原告に返還しない手段として、原告に有利な清算(再売買)をなさず、かえって保証金を超える損金が発生するような清算を行わせることを企図し、別表一の(一)ないし(三)記載の取引につき、原告が履行期前に清算の申し入れをなしたのにこれを無視し、その後、金価格が暴落したと称して原告に無断で別表一の(四)、(五)記載のとおり清算のための取引を行った。

(三) 市場を通さぬ売買成立値段の決定

被告の加盟する中央貴金属市場は、会員である金業者によって市場値が作為的に操作される等公正な金地金の取引市場としての機能を有しないところ、被告は、原告から受領した保証金を利得するため、市場を通さぬ呑行為を行い、原告に不利な時期を選んで右操作による不公正な市場値による売買成立値段を決定した。

(四) 公序良俗違反

(1) 本件取引のごとき先物取引は、通常少量の現物取引かから始めてある程度値動きの読みができ、損害の発生した場合の手当等の知識を取得した段階で、初めて行うのが常識であるところ、被告は、原告のような全くの素人に対し、これらについて必要な説明を行わず、かえってその無知につけ込み、いきなり、わずか一ケ月余の間に被告の主張によれば、総計六〇キログラムの玉を建て、総金額金二億二六六四万五〇〇〇円もの取引を行わせて損害を発生させた。

(2) 本件取引は、先物取引であるから、商品取引所法の規定が準用ないし類推適用されるべきものであるところ、被告の加盟する中央貴金属市場は、同法八条の二に違反して無許可で設立され、同法二五条所定の要件を満たしていないものであり、また、被告は、同法四一条に違反して無許可で売買取引の委託を受け、かつ本件取引については、前述のように、同法九四条に違反する違法な勧誘、無断売買を行った。

(五) 商品取引所法八条違反

本件取引は、現物条件付予約取引名下に行われたものの実体は、いずれも将来の受渡し期日前に転売による差金決済がされており、先物取引である。したがって、本件取引は、当時、金地金が商品取引所法二条二項の規定に基づく政令の指定を受けた商品ではなかったので、同法八条に違反する違法なものである。けだし、同法は、先物取引が投機性を有することから、委託者保護の見地に立って、厳格な規制と監督の下に、右政令で指定された商品に限って先物取引を許容し、他の商品については、先物取引を行うことを一切禁止しているものと解すべきだからである。

5  以上のとおり、被告における本件取引の勧誘及び本件取引自体被告の故意による不法行為を構成するので、民法七〇九条に基づき、被告は原告に対し、右行為により原告に生じた損害額である保証金相当額金四五〇万円及びこれに対する本件訴状送達の翌日である昭和五四年九月八日から支払い済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

二  本訴請求の原因に対する認否

1  本訴請求の原因1項の事実は、認める。

2  同2項の事実のうち、原告が被告との間において原告主張のような金地金売買委託取引をしたこと及び原告が被告に保証金として合計金四五〇万円を預託したことは認める。

なお、原、被告間の取引は、これのみではない。

3  同3項の事実は、認める。

4  同4項の事実は、否認する。なお、本件取引は、現物取引の一種である延取引であって、先物取引ではない。仮りに、本件取引が先物取引又はこれに類似する取引であっても、右各取引の当時、金地金は、商品取引所法二条二項の規定に基づく政令に指定された商品ではなかったので、本件取引は、同法による規制の対象外である。

5  同5項は争う。

三  反訴請求の原因

1  被告は、社団法人日本通商振興協会の運営する中央貴金属市場の正会員として、金地金の売買取引等の委託を受ける業務を営んでいたものである。

2  原告は、昭和五四年四月二四日、被告との間で、中央貴金属市場における現物条件付予約取引約款を承諾して、金地金等の売買委託取引を行う旨の契約を締結し、これに基づき、被告に委託して、別表二記載の五回の金地金売買取引を行い、その結果、同表記載のとおり、委託手数料を含め、金八二四万五〇〇〇円の損金を生じた。

3  よって、被告は、原告に対し、右損金から、右取引の担保として原告より預託を受けていた保証金四五〇万円を充当した損金残額金三七四万五〇〇〇円及びこれに対する反訴状送達の翌日である昭和五五年六月二〇日から支払い済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

四  反訴請求の原因に対する認否

1  反訴請求の原因1項の事実は、認める。

2  同2項の事実中、原告と被告との間に別表二の(一)ないし(三)記載の委託取引のなされたことは認めるが、その余の事実は否認する。

3  同3項の事実中、原告が取引の担保として被告に金四五〇万円を預託した事実は、認めるが、その余の事実は否認する。

五  反訴についての抗弁

1  本訴請求の原因4項記載のとおり、別表二記載の取引は、公序良俗に反し、また、商品取引所法八条に違反し、無効である。

2  別表二の取引は、本訴請求の原因4項記載のとおり、不法行為を構成し、反訴請求は許されない。

六  反訴についての抗弁に対する認否

抗弁1、2項とも争う。

第三証拠

一  原告

1  甲第一、第二号証、第三号証の一ないし五、第四ないし第八号証、第九号証の一ないし三、第一〇ないし第一七号証、第一八号証の一ないし五、第一九号証の一ないし四、第二〇号証の一ないし三、第二一号証、第二二号証の一ないし四、第二三、第二四号証を提出

2  証人Bの証言及び原告本人尋問の結果を援用

3  乙第一号証の一、二の成立は不知。第二号証の一、二の成立は認める。

二  被告

1  乙第一、第二号証の各一、二を提出

2  甲第一、第二号証、第二号証の一ないし五、第四ないし第八号証、第一八号証の一ないし五、第一九号証の一ないし四、第二〇号証の一ないし三の各成立は認める。第九号証の一ないし三、第一〇ないし第一七号証の各成立は不知。

理由

第一本訴について

一  請求の原因1項及び3項の事実並びに2項の事実のうち、原告が被告との間において別表一記載の金地金売買委託取引をしたこと及び原告が被告に保証金として合計金四五〇万円を預託したことは、当事者間に争いがない。

二  原告は、請求の原因4項のとおり、被告における本件取引の勧誘及び本件取引自体不法行為を構成する旨主張し、被告はこれを争うので、当裁判所は、この点について尋問するため、昭和五六年五月七日午前一〇時三〇分の第一一回口頭弁論期日において、原告申出の被告代表者Aの本人尋問につき採用決定をなし、同年六月一八日午前一〇時三〇分、九月一〇日午後三時、一〇月二九日午前一〇時三〇分及び一二月一七日午後三時の四期日を順次証拠調期日に指定したが、右被告代表者は、いずれも適式の呼出しを受けながら、右期日に出頭せず、その際、不出頭についての正当な事由の存在につき一切主張、立証をしない(なお、被告訴訟代理人は、昭和五六年一月一九日、被告代表者において本件訴訟につき訴訟の維持、進行の意思が認められないことを理由に、訴訟代理人を辞任し、その後、同年二月五日午前一〇時の第九回口頭弁論期日以降被告側は、口頭弁論期日における不出頭が続き、そのため、以来原告のみにより主張、立証活動が続いた状況にあった。)。

これらの点に鑑み、当裁判所は、本件につき民事訴訟法三三八条の規定を適用することとし、原告の主張する請求の原因4項の事実を真実と認めることとする。

のみならず、請求の原因4項については、前記の当事者間に争いのない事実、成立に争いのない甲第一、二号証、第三号証の一ないし五、第一八号証の一ないし五、第一九号証の一ないし四、第二〇号証の一及び三、弁論の全趣旨によって成立を認める甲第二四号証並びに原告本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によっても、すべて認めることができる。

以上のとおり、いずれにしても、被告における本件取引の勧誘及び本件取引自体は、保証金及び手数料名下に違法に金員を利得する目的でなされた不法行為であると認められる。

第二反訴について

一  反訴請求の原因1項の事実並びに原、被告間に別表二の(一)ないし(三)記載の委託取引(これは、別表一の(一)ないし(五)記載の委託取引と同一である。)のなされたこと及び原告が取引の担保として被告に金四五〇万円を預託したことは、当事者間に争いがない。

二  原、被告間に別表二の(四)、(五)記載の委託取引がなされたとの点については、被告作成の売買予約勘定元帳(乙第一号証の二)に、右各取引の記載があり、また被告から原告に送付された売買予約明細書二通(甲第一八号証の四、五)に、それぞれ右各取引のうち、売り委託にかかる取引の記載があるけれども、原告本人尋問の結果に照らし、右各被告作成書面の記載は直ちに信用することができず、他に右各取引がなされたことを認めるに足る証拠は存在しない。

三  そうすると、別表二の(一)ないし(三)記載の取引が仮りに被告主張のとおり有効だとしても、これによって原告に生じた損金は、委託手数料を含め金一一二万五〇〇〇円に過ぎず、原告の預託した金四五〇万円の保証金をこれに充当した場合には、原告が被告に支払うべき取引損金残額が生じないので、被告の反訴請求は、理由がない。

なお、別表二の(一)ないし(三)の各取引を原告にさせ、合計金四五〇万円の預託保証金を交付させた被告の行為が不法行為を構成するものであることは、本訴請求について判断したとおりであるから、右取引が公序良俗に反するものとしてその効力を否定されるべきことは当然であって、いずれにしても被告の反訴請求は失当である。

第三結論

以上のとおり、原告の本訴請求は、不法行為に基づく損害賠償として、保証金相当額の金四五〇万円及びこれに対する本件不法行為後の本件訴状送達の日の翌日である昭和五四年九月八日から支払い済みまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度において理由があるから、右限度でこれを認容し、その余の部分(昭和五四年九月八日から支払い済みまで年五分の割合を超える遅延損害金の支払いを求める部分)は理由がないから、これを棄却し、被告の反訴請求は、理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法九二条、八九条を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 藤田耕三 裁判官 千葉勝美 裁判官 石原直樹)

〈以下省略〉

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